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透明骨格標本の作り方(2010年度バージョン)
(48期生・桑田慎也、50期生・北川健斗) 2010年発表 (2010年文化祭用冊子原稿から抜粋)
透明標本とは?
透明標本とはその名の通り透明な標本です。最近、東急ハンズで透明標本の展示会&販売会をやっていたそうで巷でも話題だそうです。また、研究の分野でも普通の骨格標本と違い軟骨や腱などが残り、骨と骨のつながりまで分かるので重要視されています。「そんな透明標本を作ってみたい!」そう思って作ってみました。
作り方
透明標本を作るのにはかなりの時間がかかります。大きいモノなら二カ月程度かかったりします。その作り方をひとつずつ説明したいと思います。
1.ホルマリン固定
まずホルマリンで固定します。この作業をしっかりやらないと良い透明標本は出来ません。だいたい三日以上ホルマリンに漬けておきます。
後で説明しますが、これを怠るとたんぱく質分解の時に骨と身が離れてしまってバラバラになります。
2.内臓を取り出す
内臓を取り出します。ホルマリンで硬くなった内臓を取り出すのは大変ですがこの作業をしないと透明になりません。ついでに目玉も取り出します。
3.ホルマリンを抜く
真水に漬けてホルマリンを抜きます。これは消化酵素のたんぱく質をホルマリンが変質させ分解能力がなくなるのを防ぐためだと思われます。
真水に漬けておく時間は、だいたい一日程度です。
4.軟骨染色
酢酸:エタノールが三:七の混合溶液にアルシアンブルーという青色の染色液を少々入れたもので軟骨を染色します。
私たちの経験上、アルシアンブルーはなかなか色がつかないので五日ほど染色液に漬けなければならないこともあります。
5.中和
上の染色液は酸性なので飽和四ホウ酸ナトリウム水溶液で中和します。これは消化酵素の適正pHと関係しています。
簡単に言うと、消化酵素というのはたんぱく質の一種なので、pHに応じて働きが活発になったり、鈍くなったりしてしまうので、
最も活発に働く状態にしてやるのです。だいたい一日程度漬けておきます。
6.酵素によるたんぱく質分解
1.5%の四ホウ酸ナトリウム水溶液100mLに対しだいたいトリプシン1gの割合で溶液を作りそれに二日から三日ほど漬けます。
透明標本を作る上で大きな山場ですがここで重要になってくるのは適正pHと温度管理です。pHは8~9、温度は45℃程度をキープすればいいそうです。
ちなみに余談ですがトリプシンは1g30000円もします(笑)。特に関係ありませんが、1本10円のうまい棒なら3000本買えてしまいます。
7.硬骨染色
1%の水酸化カリウム水溶液にアリザリンレッドという赤い染色液を少々加えたものに1日程度漬けます。ですが、アリザリンレッドは色が濃いので
目立ちやすくブルーが目立たなくなることがあるので早めに液から引き上げたりします。
8.アルカリによるたんぱく質の分解
1%の水酸化カリウム水溶液に漬けたんぱく質を分解します。ここで分解しすぎるとバラバラになり、分解しきれないと透明になりません。
なので漬けておく時間は標本ごとにまちまちです。
9.グリセリン置換
透明標本が透明になる原理は「紙を油に漬けると透明に見える」という事と同じです。透明標本の場合は紙が標本、油がグリセリンになっています。
ということで透明標本の観察はグリセリンがないとできません。そのグリセリンに標本を漬けていくのですが一気に100%のグリセリンには
入れられないので段階的にグリセリンの濃度が薄い溶液から濃度が濃い溶液に移していきます。五段階で0%、25%、50%、75%、100%の順に
それぞれ1日程度入れておきます。これで容器に移すと完成です。なかなか難儀な作業ですがきれいにできた時の喜びはなんとも言えません。
今後の目標
透明標本は、トリプシンの値段や難解な作業からもお分かりの通り、当然ですがもともと理科室で作るものです。
しかしこれを安価に、しかも家庭でできるようになると、もっとたくさんの人がこのきれいな透明標本を楽しめると思います。
なので今後の目標は「身の回りにあるもの、スーパーで買えるものを使って透明標本を作ろう」ということにします。
しかしこれにはいくつかの壁があります。それは
・トリプシンの代わりにどのような酵素を使うのか
・アルシアンブルーの代わりに何を使うか。
・強アルカリをどうやって手に入れるか
・ホルマリンなしでどうやって標本を固定するか
・グリセリンの代わりは食用油でもいいのか
・酵素でたんぱく質を分解するときどうやって温度を適正温度に保つか
などです。壁は多いですが来年はこの壁を乗り越え、展示・販売もする予定です。
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